山鹿のお酒紹介③「ウイスキー」〜山鹿蒸溜所〜

2021年にグランドオープンした山鹿蒸溜所。
ここではジャパニーズウイスキーの新たな挑戦として世界を視野に、山鹿の豊かな自然環境と水を生かしたウイスキーづくりが行われています。
現在、山鹿蒸溜所で取り組まれているように、大麦麦芽(モルト)のみを使用した「モルトウイスキー」を一つの蒸溜所で一から作られたものを「シングルモルトウイスキー」と呼び、このシングルモルトが完成するまでには、少なくとも3年の熟成期間を要します。

2025年の熊本・山鹿産ウイスキーの誕生に向け、日々躍動する蒸溜所の模様を、今回特別に内部まで取材させていただきました。

観光スポットとして人気の施設見学や有料ガイドツアーの予約も受付中です。

まずは原料からウイスキーづくりの流れを知る

原料は大麦の麦芽である「モルト」。1度の仕込みで使うモルトは約1t。世界の大手製麦会社から商社を通して仕入れています。
味見すると一粒だけでも味わい深く、噛むと同時に麦の香りが口の中にふわっと広がります。

製造の大まかな流れはビールづくりと似ているそうですが、ウイスキーづくりは、蒸留という工程によりアルコール度数を高めて原酒をつくり、樽熟成させるのが最大の特徴です。

それでは、大型タンクの並ぶメインの工場部分に入っていきます。

モルトはまず、ハッシュ、グリッツ、フラワー(粗挽き、中挽き、小挽き)の3段階に約2:7:1の割合で粉砕され、お湯と混ぜて麦汁をつくります。

山鹿蒸溜所の仕込み水は、菊池川水系と国見山系の深層地下水であり、ウイスキー造りに適していると言われる硬度60~70度の軟水です。

ここで大切なのが麦汁の清澄度を高めることだそうです。下に沈むハッシュ(粗挽き)の部分が濾過の役割を果たします。

この麦汁は1回の仕込で約5,500Lが抽出され、次の発酵の工程において酵母を加えることで発酵が促進されます。

山鹿蒸溜所で使用されている酵母は、一般的にウイスキーに使用されるディスティラリー酵母に加え、味・香りの華やかさが特徴のエール酵母にも挑戦しているとのことです。

4日間かけて発酵させ、アルコール度数約7%のもろみをつくります。

蒸留とスチルマンについて

4日間発酵させたあとは「蒸留」の作業に入ります。

ウイスキーの蒸留は、初留(1日目)、再留(2日目)の2回行い、それぞれ蒸留に7時間かけています。

アルコールの沸点は約78度なので、水の沸点との差を利用して蒸留されます。
ほとんどの方が理科の実験で体験したことのある、あの原理です。
銅製の大きな蒸留器(ポットスチル)はまるでスチームパンクな世界観。おしゃれなデザインと、その大きさに圧倒されます。

山鹿灯籠を彷彿させるバルジ型のこの蒸留器。
実は既製品はなく、その蒸溜所の目指すウイスキーの酒質に合わせて1基ごとに製作されるため、基本的にはオーダーメイドでこの蒸留器も世界に一つだけなんだそう。
山鹿のウイスキーのオリジナリティ溢れる、夢の詰まった設備です。

気化させたアルコールの再液化の役割を担うコンデンサーと蒸留器をつなぐ設備「ラインアーム」の角度にもこだわっていて、ウイスキー製造に詳しい方が見たらその特徴が面白いと感じる逸品なんだとか。

ウイスキーの製造過程において蒸留を行う人は「スチルマン」と呼ばれ、原酒の味を左右する重要な役割を担っています。
味の偏りを防ぐため山鹿蒸溜所では全員が「スチルマン」を担当します。

蒸留が始まると、30秒に1回程度テイスティングをしながら、ミドルカットのタイミングを見計らいます。ミドルカットとは、蒸留液の一番良い真ん中の部分を取り分け熟成に回すことで、取り分けるタイミングを見極める大切な工程です。

この日、蒸留を担当していたのは川野さん。
この蒸溜所のスタートに合わせて赴任した創業メンバーの一人です。

蒸留液をどの時点でミドルカットするか、3年後の熟成を想像しながらテイスティングの記録を取ります。
時間ごとのラベルが貼られたグラスに原酒を少しずつ汲み分け、蒸留後に全員でその日の味や香りを共有するのです。

ウイスキーづくりはチームで行うため、原料から樽詰めまでの約7日間にチームワークも醸成されます。

樽と熟成のこと

樽詰めを迎えた原酒は樽熟成庫で最低3年の熟成を経て商品となっていきます。

木も生きているので乾燥や収縮などにより中の原酒が染み出てくることもあります。樽のメンテナンスは欠かせません。
なかなか見ることのできない樽の修理風景も見せていただきました。

どの樽に入れて熟成するかで全く異なる仕上がりになるため、さまざまなものが用意されています。

バーボン樽の場合は、バーボン由来のバニラ香やクッキーのような香ばしい味わいがありますが、シェリー樽ではレーズンや干しブドウなどの香りがあり、芳醇なウイスキーへ仕上がるそうです。

また、シェリー樽に関しては、木の材質がアメリカンホワイトオークなのか、スパニッシュオークなのかでも違う風合いとなるそうです。

気温の寒暖差が大きければ熟成は進みやすく自然蒸発するアルコールも増えます。この部分はエンジェルシェア「天使の分け前」と呼ばれ、南国のような気温が高い場所では3年で完全に無くなることも。

工場を案内していただいた営業企画・広報の本坊 優紀子さん。
作り手の思いと、こだわりの理由を細部に至るまで分かりやすくレクチャーしていただきました。

樽熟成庫の奥にある、この蒸溜所で詰められた1号樽を「長男」と呼ぶ本坊さん。
3年後に出すか、10年寝かせるかは、これからのテイスティング次第とのこと。「これからの成長が楽しみです」と樽を愛おしそうに眺める本坊さんの姿が印象的でした。

最終工程はブレンド

熟成が終わると、最終的に樽から出したものを理想の味に組み合わせる「ブレンド」という工程になります。

候補の樽のサンプルをテイスティングして製品の構成を考えていき、樽を複数選んでブレンドしていきます。
ブレンドによって新しい香りや味わいが生まれるので、似たもの同士ではなく、違う個性のものを組み合わせ、個性的で締まったウイスキーを作り出す最後の仕上げとなります。

完成まで少なくとも3年、今ここにある樽から2025年以降にどんなウイスキーが世に出されるのか。
思いを馳せて待つ時間も楽しむ、ウイスキーづくりの奥深さには圧倒されるばかりです。

メイドイン山鹿のウイスキーづくり、次は3年後にぜひ伺いたいと思います。

■今手に入る原酒はこちら

ウイスキーそのものは2025年以降にできるため、現在は数量限定の原酒がショップに並びます。

2回の蒸留を経た「ニューポット」と呼ばれる無色透明な原酒が、山鹿蒸溜所内のショップ限定で販売されています。※予約不可

夢と情熱のウイスキーづくりを

山鹿蒸溜所の藤本 哲朗副社長にお話を伺いました。

「山鹿は豊富で良質な水に恵まれていること、グループ会社の持つワインや焼酎などこれまでに蓄積されたアルコールビジネスのノウハウ、さらにジャパニーズウイスキーのニーズの高まりもあり、熊本初のウイスキーに賭けてみたい。そんな思いからこのプロジェクトは始まりました。」

「実際に製造を開始してちょうど丸1年。3年経って初めてウイスキーとして世に出るので、我々が思い描いているウイスキーになっているかどうか、楽しみでもあり、長いからこその不安もあります。ですが、製造現場のスタッフのチームワークと、山鹿の年間気温の寒暖差が、熟成に面白みを持たせると考えています。」

「シングルモルトとは何か、原料は何か、まだまだ知らない方が多いのも事実です。モルトウイスキーを少しずつ広めていけるよう、地元の産業の1つとして学校の社会科見学の受け入れも始めています。日本で作る良さ、特有の気候や自然、日本人が持つ真面目さや繊細さは、今海外からの高い評価につながっていると思います」

ウイスキーづくりには夢と情熱が大切です。
熊本県内では新しいカテゴリであるこのウイスキーを通じて、地元、熊本・山鹿から世界へと発信をつなげていきたいですね。

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